お茶とお酒がマッチング!
和酒の新潮流はここから生まれる。
<前編>

PICK UPピックアップ

お茶とお酒がマッチング!
和酒の新潮流はここから生まれる。
<前編>

#Pick up

櫻井真也さん by「souen 櫻井焙茶研究所」

静謐な佇まいのこちらは、若き店主が切り盛りする日本茶専門店。ここでしか味わえない「茶酒」があるという。まるで茶室のようなカウンターでいただくその味わいとは。

文:Ryoko Kuraishi

店舗奥にしつらえた茶房には、美しい茶道具が整然と並ぶ。Photos by Tetsuya Yamamoto

お茶の歴史は奈良・平安時代に遡るという。
遣唐使によってもたらされたお茶は当時、非常に貴重なもので、僧侶や貴族など限られた人のみが口にできるものだった。
その後、武士から豪商へ、そして江戸時代には庶民へと、お茶を飲む習慣は広く普及していく。
そして大正・昭和時代の日本の家庭には、お茶はなくてはならないものになっていた。


そんな奥深い日本茶に魅せられたのが、「souen 櫻井焙茶研究所」所長の櫻井真也さん。
江戸時代に煎茶を広めた「売茶翁(ばいさおう)」のように、独自のブレンド、そして自家焙煎を通して、お茶の新しい楽しみ方を多くの人に伝えたい。
そんなコンセプトでスタートしたのが「souen 櫻井焙茶研究所」である。

丁寧に淹れてもらうお茶は、味も香りも絶品!美しい所作も見ものだ。

和食料理店「HIGASHI-YAMA Tokyo」や和菓子店「HIGASHIYA」を展開するSIMPLICITYの緒方慎一郎氏が手がけた、無駄を削ぎ落とした美しい空間には、お茶を焙煎する香ばしい香りが漂っている。


店舗に並ぶのは、櫻井さんが日本各地へ足を運び、吟味して選んだという20種以上のお茶、リンゴや生姜など四季折々の素材とブレンドしたオリジナルの茶葉、お茶のひとときを盛り上げてくれるような美しい茶道具たち。
店の一角には焙煎機がしつらえてあり、ローストしたばかりのお茶もいただける。


奥には8席の茶房を併設している。
ここでは伝統的な玉露や手揉みの高級茶など、およそ30種のお茶をいただくことができるが、おすすめは日本全国から様々な種類を揃えた「本日のお茶」。


用意された6種のなかから好みを選ぶと、目の前で丁寧に淹れてくれる。
玉露にブレンド茶、ほうじ茶、和菓子をセットにしたお茶のコース(3,800円)や、食事のコース(4,200円)などもあるが、特筆すべきはお茶を使ったお酒のラインナップ。
ラム、ウイスキー、ジン、ウォッカといったスピリッツに茶葉を漬け込んだ、独自の茶酒が味わえるのだ。

こちらが「本日のお茶」。ラインナップは日々変わる。

店主の櫻井さんはもともとバーテンダー出身。
学生時代は銀座のオーセンティックバーでアルバイトをしていた。
いい先輩たちに恵まれ、ここでじっくりバーテンディングの基礎を仕込まれたという。


卒業後は、バーテンダーとして和食レストラン「HIGASHI-YAMA Tokyo」へ。
併設するバーで腕を振るった。
その後、系列の和食料理店「八雲茶寮」、和菓子の「HIGASHIYA」へ。
四季を表す和菓子に合わせたお茶の企画をプロデュースしたり、まるでワインのように和食にマッチする日本茶のコースを提案したり、和の世界に親しむにつれ、日本の文化、ことにお茶の奥深さに目覚めていった。


「お茶を勉強するようになって和の文化や四季の変化への興味が高まりました。
また、自分が生まれ育ったこの国がどういう文化で成り立ってきたかというのを知ることができました。
そうして思いを馳せるようになったのが、現代の日本なりのお茶文化のありかたです」


品種や製法をひとつとっても、いろいろな楽しみかたができるのがお茶の面白さ。
でも、そういう体験を提供し、お茶の面白さを発信している店や空間がどこにもない。
そんな物足りなさを感じていた。

自慢のオリジナルブレンド茶。こちらは柚子とミント、緑茶を合わせたもの。「熱い湯でさっと淹れるのがオススメです」。2,160円。

「生産者の熱意を伝え、もっと日本の茶文化を大切にしていかなくては。
ならば、そういう場を自分で作ってしまえばいい。
お茶の魅力を、その価値観を、国内外問わず広く知って、体験してもらいたい、
そんな思いから『souen 櫻井焙茶研究所』をオープンすることになったんです」


独自に発展し、私たちの暮らしに馴染んできた日本茶だが、いまはペットボトルのお茶が主流の時代だ。
日本茶はあまり飲まないという人も少なくない。
本来の日本茶の文化は廃れつつあるように思い、切なさを感じた。


「店舗ではテイスティングもできますし、茶房ではおよそ30種類のお茶を楽しんでいただけます。
ここではそのお茶に最も適した淹れ方、湯温で提供しています。
焙煎方法や淹れ方、そして季節によっても味わいが異なる日本茶の楽しみ方を多くの人に体験・知ってもらうことで、新しい日本茶の体験や価値観を提案できればと思っています」

バーテンディングとお茶の作法には相通じるものがある、と櫻井さん。

櫻井さんが言う「新しい日本茶の価値観」、その一つが試行錯誤して生まれた茶酒だ。
お茶の酒というと、お茶割りのスタイルが一般的だが、櫻井さんは茶葉そのものをスピリッツに漬け込むというアイデアを考えついた。


お茶とスピリッツ、それぞれの特性や相性を考え、茶葉を合わせる。
するとおなじみの洋酒のフレーバーが、明らかな和のそれに変化する。
「和菓子を食べ、漬物をつまみ……そんなシーンにはまるお酒があれば、生活のなかのお茶の存在に、あらためてフォーカスできると思いました」


後編では、櫻井さんが編み出したまったく新しいお茶と酒の競演、「茶酒」を詳しくご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

souen 櫻井焙茶研究所
(取材時)東京都港区西麻布3-16-28 ル・ベイン1階
TEL:03-5786-0024
URL:http://www.sakurai-tea.jp

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