バー巡り37年の思いを形に。
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<前編>

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荒川英二さん by「Bar UK」

自らが監修した成田一徹さんの作品集『to the BAR』を携え、「Bar UK」の荒川英二さんが登場!成田さんとの親交のこと、昨年オープンしたバーのこと、そして現在のバー文化に思うことなどを伺った。

文:Ryoko Kuraishi

バー激戦区である大阪・北新地にオープン。「マッサン・ブームでいま、再び評価されはじめたウイスキーの魅力を、若い人たちに伝えたい」と、「明朗会計」&「19時まではノーチャージ」を貫く。(19時以降はサービス料¥300)

『酒とピアノとエトセトラ』というブログをご存知だろうか?
2004年にスタートしたこちらはタイトルの通り、バー&酒とピアノ(音楽)をテーマにしたもので、どりぷら編集部内にもファンが多い。


全国のバーのこと、酒やカクテルのこと、音楽、とくにジャズやロックのことを中心に、ミステリー小説から歴史、旅、食べ歩き、ガーデニングにいたるまで幅広いトピックが網羅されており、それぞれの記事が実感を伴う言葉で綴られている。
いいバーとの出合い方、カウンターでの話題、席でのマナーなど、バーでの作法のあれこれが紹介されており、バー初心者にとっても有用だ。


著者は荒川英二さん。
バーホッピング歴37年という大のバー愛好家にして元新聞記者、時にピアニストというバックグラウンドの持ち主だ。
昨年には長年の夢がかない、遂に自らのバー「Bar UK」を北新地にオープンさせた。


今回のインタビューでは、バー巡りのスペシャリストにして現在はオーナーバーテンダーという、カウンターの向こうとこちらの両面を知る荒川さんにバー文化やバー業界について思うことなどを伺った。

自ら「音とウイスキー、そして成田一徹をフィーチャーした店」というだけあり、店内の一角には成田さんの切り絵の原画がずらり。いずれも成田さんのご遺族から貸与されたものだ。

そもそも荒川さんがバー通いを始めたのは、大学を卒業して新聞記者になったばかりのころ。
最初の赴任地は金沢で、仕事帰りに先輩や他紙の記者らに連れて行ってもらうようになり、バーの世界に足を踏み入れた。
バー巡りが本格的になるのは1982年のこと。
新たな赴任先の神戸で神戸港関連のニュースを取材する“海まわり”になったことをきっかけに、盟友・成田一徹さんと知り合ったのだ。


「当時、一徹さんは30代前半で、神戸港振興協会という神戸市の外郭団体に勤めていました。
神戸のいわゆる“外人バー”を、切り絵とエッセイで紹介する『酒場の絵本』という本を友人と一緒に自費出版されたころのことです。
切り絵という表現方法も斬新で感動しましたし、そこに描かれた“外人バー”にも大いに興味を引かれました」

独学で始めたピアノにハマり、「ミスティというバーで、20年くらい弾かせてもらっていました」と荒川さん。こちらはそのときのライブの様子。「バーに音楽は欠かせません。それが生の音なら、そこはより素敵な空間になるはず」と、Bar UKにもキーボードを置いている。

こんなことから始まった、成田さんとの親交。
まずは『酒場の絵本』に紹介されているバーの一軒一軒に連れて行ってもらった。
外人バーは港に集まる外国人船員を相手にしているバーで、国籍ごとに店が分かれている。
日本人はオフリミットの雰囲気もあったが、まるで日本ではないような異国情緒あふれる佇まいもまた、荒川さんを惹きつけた。


「何百軒というバーを巡りましたが、最も思い入れのあるバーのひとつが、この時代に出かけた『サンシャイン』というデンマーク人が集まるバー。
マスターは元船員のデンマーク人、”ロバさん”ことロバートさんで、90年代初頭に店は無くなりましたが彼は健在。
一徹さんも大好きで、亡くなる前のことですが2人でロバさんに会いにいったこともありました。
お客さんとの距離感を保つのが本当に上手なマスターで、だから店の居心地がよくて。
いいバーでしたね」

成田一徹さんのバーの切り絵を集めた作品集、『 to the BAR』(神戸新聞総合出版センター、2014年刊)。「なるべくたくさんの作品を紹介したかった」という、荒川さんの思いがこもった一冊になった。Bar UKで購入できる。

1988年、成田さんが切り作家として上京してからは、荒川さんの出張の折などに都内や横浜のバーを一緒に回った。
「バーでのマナーやルール、大人の酒の飲み方を教えてくれたのは、一徹さんと一緒に巡った老舗バーのマスターでした」と当時を回想する。


3年前に急逝した成田さんとの記憶や体験、すでに閉店してしまったバーでの時間を一冊の本として残しておきたいと、昨年は成田さんのバーの切り絵の作品集、『to the BAR』全面改訂版の出版に奔走した。


「『酒場だより』、『to the BAR』98年版と2006年版、そして『カウンターの中から』と著書を発表してきた一徹さんでしたが、ライフワークとしてきたバーの切り絵の集大成として、なるべく多くのバーと作品をとりあげようと、生前から企画していたものです。
太田(和彦)さんにADをお願いしたいというのが一徹さんの希望だったので太田さんにお声がけしてみたところ、快く引き受けてくださって」

バー愛好家としての楽しみは、「さまざまな出会いに尽きる」という。こちらは伝説のブレンダー、" the Nose"こと、ロバート・ヒックス氏。元バランタインのマスター・ブレンダーである。「モルトをストレートでぐいぐい飲み干す、フレンドリーな方でした」。

こうして出来上がったのが、250点の作品を収録した作品集だ。
すでに閉店した店、亡くなったマスターも含め、全国津々浦々の名バーと名バーテンダーの姿を収めた。
そのうちの8割は荒川さんが同行していることから、それぞれの解説文は荒川さんが中心となって手がけた。


「『この本は、バーへ行き、旨い時を過ごす楽しさ、馴染みのバーを持っている喜びを語ったものである』という一徹さんの言葉を前書きに引用していますが、たくさんの人にとって新しいバーと出合うきっかけとなれば、こんなに嬉しいことはありません」


後編では自らのバーを開いた荒川さんがそこで追求すること、バー愛好家だからこその視点をご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

Bar UK
大阪府大阪市北区曽根崎新地1丁目5-20  大川ビル B1F
TEL:06-6342-0035
URL:http://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/

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