PICK UPピックアップ
極めるは、カクテルの味わい!?
フレアに吹く、新しい風。
<前編>
#Pick up
熊代綾子さん
世界チャンピオンに輝いた、Roadhouseでのパフォーマンスから。
ロンドン・コヴェントガーデンにある「Roadhouse」にて毎年開催されている、女性フレア・バーテンダーの世界大会「Roadhouse World Flair-Chicks With Flicks 2017」。
モナコのSkyy、米国のレジェンドと合わせ、世界3大大会と位置付けされており、グローバルに活躍するフレア・バーテンダーが顔を揃えるこの大会で、見事、2年連続となる世界チャンピオンの座に輝いたのが熊代綾子(オーリー)さんである。
ちょうど3年前、フレア・チームのUPTを率いる、世界チャンピオンのMitsuさんをフィーチャーしたが、あれからフレアの世界にはどんなムーブメントが生まれているのだろうか。
熊代さんに現在のフレア事情を教えてもらおう。
2017年最後の大会となった「ANFA Professional Flair 2017」。アルゼンチンから参戦したローマン・ザタパなど強豪が顔を揃えるなか、4位入賞!カクテルポイントはトップをマークした。
「ここ2、3年の動きといえば、大会においてもカクテルの味が重視されるようになったこと。
以前は技の難易度やクリエイティビティが重視される傾向にありましたが、近年はカクテルポイントの比重が高くなっています。
『ベストカクテルアワード』のような、カクテルの味わいを競うアワードが登場しているのもここ最近の傾向ですね」
実際にお客さんを迎えるバーでのパフォーマンスは別として、大会では審査員にアピールする大きな技やオリジナリティ溢れる動きにまとめてしまいがち。
その分、選手にとってカクテルの味わいは二の次になることも少なくなかった。
「カクテル審査では風味や味わい、デコレーションに加え、ネーミングや創作意図もチェックされます。
技の難易度を上げたりクリエイティビティを追求したりするのはもちろんですが、私はそれ以上にカクテルメイキングを重視しているので、カクテルポイントは意識して取りにいくようにしています」
こちらがベルギーの大会のために披露した「花」。同じカクテルを「ANFA Professional Flair 2017」でも披露した。
たとえば、今年熊代さんが作ったオリジナルカクテルの中で、最も評価が高かった「花」。
4月に行われたベルギーの大会用に考案したものだが、こちらはアールグレイ・インフューズド・ウォッカにハチミツ、クローブとカルダモン、レモンジュース、ラベンダービターズ、ローズシロップ、卵白をシェイクし、最後に桜塩をふりかけて桜エッセンスで香りづけするという女性らしいカクテルだった。
ベルギーといえば、世界遺産のグラン・プラス広場を花で埋め尽くすという「フラワーカーペット」が有名だが、フラワーカーペットと日本の桜、日本とベルギーの共通点を「花」と考えたことからこのカクテルのレシピが浮かんだという。
ちなみにこちらはその大会でベストカクテル賞を受賞している。
「ボトルを投げながら、カクテルの味わいを追求するにはどうすればいいか。
それには不確定要素を排除した手順を、事前によく練っておくことです。
例えば、回数を多く投げるボトルにはベーススピリッツを入れておきます。
レモンジュースのように5mlの分量の違いで味わいが大きく変わる副材料は正確に注ぎたいから、振り回したくないんです。
ポアの精度を高めるなど、基本の技術を見直すことも大切ですね」
少し前にはたくさんのシェイカーを使うパフォーマンスが流行ったことがあったが、カクテルの出来や創作意図を重視するようになった昨今ではこうしたパフォーマンスはあまり評価されない傾向にある。
グローバルの大会ではそれが特に顕著だという。
審査基準に新たに「関連性」というカテゴリーができ、カクテルに関係のないものをパフォーマンスに使うと、難易度でポイントがついても関連性では点が取れないのだ。
「そういう事情もあり、皆、実際のカクテルメイキングに必要なバーツールを積極的にルーティンに取り入れるようになりました。
だからこそストレーナやオープナーなどのバーツールの使い方など、バーテンダーの基本技術がフレアの世界で見直されているのだと思います。
滑らかな技やルーティンというのも審査基準の一つですが、基本の技術をきちんとマスターしてこそ、流れるようなルーティンが可能になるのではないでしょうか。
世界に出ると、みんなとても上手でそれぞれのスタイルを確立していて圧倒されますが、そうした独自スタイルのベースにも基本の技術があるような気がします」
以前のインタビューでMitsuさんも、「グラスや機材の扱い方などバーテンダーとしての美しい所作を身につけたくてオーセンティックバーで修業を行なった」と話していた。
フレアの技には直接関係なくとも、丁寧な所作や機材の扱いはパフォーマンスの見栄えをよくするからということだったが、現在のムーブメントを先取りしていたようだ。
後編では、熊代さんのパフォーマンスで定評のある5分間の「世界観」づくりについて、また音楽とルーティンとのマッチングについて、一つのショウとしてパフォーマンスをさらにレベルアップさせる演出術を伺ってみよう。
後編に続く。