雪国育ちのウコンがつなぐ、
和食材とスパイスのいい関係。
<前編>

PICK UPピックアップ

雪国育ちのウコンがつなぐ、
和食材とスパイスのいい関係。
<前編>

#Pick up

スパイス×和食材 by「三条スパイス研究所」

新潟県三条市に昨春、オープンした「三条スパイス研究」。スパイス料理のシェフ、伊藤一城さんを所長に県内外のクリエイターたちが集う、食を中心とした取り組みをご紹介しよう。

文:Ryoko Kuraishi

実は三条市の公共プロジェクトとして完成したスペース。オーダーせずとも、休憩や待ち合わせなど自由に使える空間だ。

スパイスというとクローブやナツメグなど、料理に香りやアクセントを加える、乾燥させた植物の茎や実、種を思い浮かべるかもしれない。
スパイスとは嗜好品、つまり楽しむもの。
そんなイメージも強いだろう。


本来のスパイスはもっと自由にカテゴライズできるもの。
そして日本には日本のスパイス文化があるはず。
三条スパイス研究所、略してスパ研では、そんな考えをベースに「日本のくらしにスパイスを」というコンセプトを掲げている。


監修するのは東京・押上にあるスパイス料理店、「スパイスカフェ」オーナーシェフの伊藤一城さん。
農産物としてのスパイスに地元食材や地域の食文化、古くから郷土に根付く生活の知恵、そんなものをミックスした、新しい食の価値観を発信している。
それらの媒介となっているのが、新潟県の山間部、下田地区で作られているウコンである。

三条スパイス研究所の出発点となった、山崎さんのウコン。

「そもそも日本には、世界でも類を見ないスパイス文化がありました。
薬味に代表される、スパイスの生食文化です」
そう話すのは、スパ研ディレクターの山倉あゆみさん。


味覚や香り、彩りのアクセントだけでなく、スパイスそのものを食材として味わう。
ここに「日本のくらし」とスパイスのマッチングのヒントがあると考えた。


山倉さんが最初に出合ったのは、雪深い山間部で作られるウコンだった。
栽培するのは下田地区に暮らす89歳の山崎一一さん。
60歳で引退したのち、沖縄で見つけたウコンの種芋を新潟で持ち帰り、試行錯誤して越冬させたという強者だ。


驚いたことに、下田の農産物直売所ではそのウコンが圧倒的な売り上げ一位を誇っており、山崎さんのウコンに続けとばかり、ドクダミやら何やらさまざまな薬草がメインコーナーを占めていたのだった。
もともとこの周辺には、こうした野草や薬草を常備する文化が身近にあったのだという。

南国のウコンを雪国で栽培すべく試行錯誤したという山崎さん。栽培歴はすでに25年を超える。

この三条産ウコンを料理のベースにしよう!とアイデアをもらった山倉さん。
ウコンを取り入れるにあたり新潟の食文化にあらためて思いを馳せる中で、新潟の土地が育む農産物や和食に欠かせない、だしや旨みに注目。
旬の野菜や郷土の食材を「スパイス」として見直してみようと考えた。


「大豆を木槌で打って平らにした打ち豆や、冬を越すために干した野菜。
どちらも、冬は深い雪にとざされる新潟ならではの郷土食材です。


こういった食材を自分たちらしく再編集できないか。
そうやってできたのが最初のオリジナルメニュー、『打ち豆と干し野菜のカレー』でした」


切り干し大根でだしをとり、打ち豆でコクを出したカレーに三条のウコンがアクセントを添える。
それは三条でしか食べられない、特別なスパイス料理になった。

山崎さんの畑に触発され、スパ研前にもウコン畑が出現。

「オリジナルカレーと一口に言っても、カレーに使われるいわゆるインド産『ターメリック』とウコンでは苦味、からみ、性質も個性も全く違います。


私たちはスパイスを農産物の一つと捉えて扱っていますが、農産物だからこそ、季節の変化も見逃せません。
そうした違いを丁寧に解きほぐすことも、スパ研が発進するスパイス文化の醍醐味だと考えました」


もう一つ、このプロジェクトの助けになったのが、毎月6回開催される朝市だ。
600年前から続く朝市では、他ではお目にかかれない素材や昔ながらの食材も並ぶ。
山倉さんと伊藤シェフは、この朝市である植物に目をつけた。
季節になれば当たり前のように売られていたという、山間部のサンショウである。
昔はたくさん採れていたのだが、活用方法が受け継がれなかったことで現在は廃れつつあるとか。


サンショウだって立派なスパイスでだ。
そして、地元の高齢者の頭には、郷土で忘れ去られつつあるスパイスの知識が眠っていにちがいない!
こうして土地のおじいちゃん・おばあちゃんたちがスパ研のメンターになった。

春ウコンと秋ウコン、色も風味も全く異なる。春ウコンは苦味も辛味も刺激的。秋ウコンは発色が良くて風味はマイルド。スパ研ではそれぞれの特徴を生かした調理法を研究している。

オープン早々、スパ研の前の土地を耕してウコン栽培にも取り組んだ。
種芋の越冬、植え付けは名人・山崎さん直伝である。


「同じ三条市でも山崎さんの住む下田地区と市街地のこちらでは、土も気候も日照時間も異なります。
日本のくらしにスパイスを取り入れるなら、気候風土の違いをふまえたスパイス作りも必要なんですね」


5月に植えたウコンはみるみるうちに大きくなり、夏には1mほどの高さにまで成長した。
2mを超える山崎さんの畑には及ばないが、1年目にしては上々だ。


11月に収穫したウコン(なんと150kg!)は、生のスパイスとしてそのままカレーに使われた。
カレーだけではない、ターメリックバターミルクなどのドリンクにもなる。
葉は乾燥させ、オリジナルリーフティーとして提供している。


個性の異なるスパイスをミックスすると、思いがけないハーモニーが生まれる。
後編ではスパイスカクテル、スパイス氷……さらに奥深いスパイスの世界を探訪してみよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

三条スパイス研究所
 新潟県三条市元町11-63
TEL:0256-47-0086
URL:http://spicelabo.net

SPECIAL FEATURE特別取材